スペシャルコンテンツ

幸子にラブ・ソングを

第4話

スマイル!ワーママの奥義★

派遣での就業をスタートして1週間。
幸子は、営業の新橋くんからの電話や、コーディネーターの青山さんからのメールなど、
“気にかけてもらっている”安心感も手伝って、どうやらちゃんとココでやっていけそうだな、
という感覚を持てるようになっていた。

「幸子ちゃん。わたし今日お弁当じゃないから、お昼いっしょに行かない?」

声をかけてくれたのは、同じ部署で働くフミさん。
幸子とは別の派遣会社から来ていて、時短で勤務しているワーキングマザーだ。
おっとりした雰囲気で、いかにも「やさしそうなお母さん」といった風貌のフミさんだが、
幸子はお仕事初日に言われた言葉を忘れてはいない。

『六本木フミです。よろしくお願いします。
私のことは、下の名前で呼んでくださいね。
ね?

めったなことでは会社の、しかも年上の人を名前呼びする幸子ではないものの、
フミさんのやさしい笑顔の奥にある強い光に逆らえず、思わず承諾したのだった。

すかさずそばで聞いていた芝部長が入ってきて、
『フミさんは“六本木”ってガラじゃないよね~。ダンナに婿養子に入ってもらえばよかったのに』

『芝さんたら、そうやってすぐ思ったことが口から出ちゃうから、
ダダ漏れの芝、なんて言われちゃうんですよ~うふふ♡』

『えぇ~?ボクそんなふうに言われてるの?困ったなぁ~♪HAHAHA☆』

この時なんとなく背筋がぞわぞわっとする感覚をおぼえたことは、
いまのところ自分の胸にだけしまっている。


「そういえばお席にいらっしゃらなかったですけど、三田さんは外ランチしないんですかね?」

オフィス近くのイタリアン店でパスタを待つ間に、
幸子は同じ部署でやはり派遣社員の女性・三田さんについて尋ねた。

三田さんは、年齢不詳かつ寡黙な女性で、いつもモニタから寸分も目を離さず、
神速ともいえるスピードでキーボードを操作しているが、
昼時に幸子がふと気づくと席を外しており、13時ごろになると戻ってくる。
かと思えば定時キッカリに「お先です」というひと言と共に去っていく、神秘的な存在だ。
少なくとも、幸子の中では。

「あぁ三田さん?三田さんはいつもお弁当みたいね~。
毎日ちゃんと自分で作っててえらいわ~」

「フミさんだって、毎日お仕事しながらお家のこともされてるじゃないですか~。
お子さん、お2人でしたっけ?」

「うん、そうよ~。小1と4歳の男の子。」

結局三田さんの神秘のヴェールは開かれることなく、フミさんの話を聞きながらのランチになる。

「仕事をしながら家事も育児もって、正直大変じゃないですか?
私なんて、1日姪っ子の面倒をみるだけでヘトヘトでしたよ・・・」
なんでもサラリとやってしまう印象のフミさんから、
もしかしたら時短家事のコツなどを聞けるかもと、ほのかな期待を寄せつつ聞いてみる。

「ん?やらない♡

「え?」


「やれないときは、やらないのよ~。
だって
1日くらいやらなくたって、誰も死なないし~うふふ♡
この前ね、通販でモップ付スリッパ買ってみたんだけど、あれベンリよ~」

フミさん、究極!!!さすが、母は強し―

度肝を抜かれつつ、ふと初日に見たフミさんと芝部長とのやりとりを思い出し、
自分の中でなんとなく、点と点が一本の線になったのであった。

 

フミさんとのランチから戻ると、芝部長が幸子の席に近づいてくる。

「内さん、さっきシンガポールから連絡あって、
来週あっちからボクのReport toが来るから、対応ヨロシクね!」

「えっ、来週って・・・?今日水曜ですけ・・・

「あー、大丈夫大丈夫!来日の手配は向こうのセクレタリがやってるから、
当日のアテンドだけしてくれればー。じゃ、そゆことで」

なんなの?ダレが来るの?アテンドってナニすりゃいいのさ?!?!

本日2度も度肝を抜かれ、白目で席につく幸子であった。
ついにビジネスで英語を話す場面がやってくる・・・!幸子の運命や、いかに?!

PAGE TOP